鶴見臨港鐵道株式会社

◆鶴見線路線変更

 鶴見線は大正14年2月4日付で第1期線の延長線として免許申請され、大正14年11月24日付で免許下付され、現場実測を経て各部の設計に着手した後、昭和2年3月17日付で工事施工認可が申請されております。昭和2年上期第6回営業報告書に記載されておりますが、引用しますと以下の通り。「爾後精査ノ結果用地及他社線乗越ノ関係等ニテ施工困難ナルヲ認メタルヲ以テ路線ヲ変更シ省線ヲ横断シ鶴見駅西側ニ於テ鶴見駅ニ連絡シ更ニ線路ヲ延長シ鐵道省ニテ工事中ナル鶴見操車場ニ直接連絡スル路線ヲ選定シ之カ測量ヲナシ工事施工ヲ出願セリ」

 昭和2年3月8日付の重役会決議書「路線変更ノ件」には以下のように記載されております。
要  項
現設計
新設計
起  点
辨天橋
同左
終  点
鶴見駅東側
鐵道省鶴見操車場東側
哩  程
一哩二二五
三哩三二八
辨天橋・鶴見駅間
一哩二二五
一哩四八八
鶴見駅・操車場間

一哩八四〇
最急勾配
三十三分ノ一
六十六分ノ一
将来旅客線トナシ得ル哩程
一哩二二五
二哩三二六
工事費
二二〇萬円
二四五萬円
一哩當工事費
一八〇萬円
七四萬円

●理由
 現設計ニ於テハ三十三分ノ一ノ急勾配ヲ有シ操車線短小ニシテ将来貨物増加ノ場合能力不十分ナリ
省線ト連絡地点ハ人家稠密ノ場所ニシテ将来拡張改良ニ困難ナリ
現設計線路ハ京濱国道及京濱、海岸軌道ト殆ト全所ニテ交叉シ其ノ交渉困難ナリ
現設計線路ハ鶴見町中地価最モ高キ中心ヲ貫通シ用地買収及移転費等ニ多額ヲ要ス

新設計ニ於テハ鐵道省操車場ニ於テ連絡スルヲ以テ操車場能力充分ニシテ将来必要ニ応ジ拡張改良ノ余地アリ
・・・・(略)・・・・
尚将来旅客営業開始スル場合現計画濱川崎鶴見間(三哩八)ハ営業線トシテ短小ナルヲ以テ多少ナリトモ営業哩数ヲ延長シ置ク方営業成績ヲ良好ナラシムル事ヲ得
新旧国道、京濱電鉄等ノ横断位置現設計ニ比シ良好ナリ
右ノ如ク新設計ニ於テ現設計ニ比シ工事費ヲ増加スルモ現設計ハ埋立地工場地帯ニ於テ激増スル貨物ノ主要連絡設備トシテ到底不適当ニシテ落成後数年ナラスシテ大改修又ハ新線建設ノ要アルベク此際本案ノ新線路トシテ諸計画ヲ進ムルヲ有利トス

 当社には当初想定の線路図面が残されておりませんが、当初は鶴見駅東口に連絡して、貨物線に連絡することとしておりましたが、それでは鶴見川を越えて海岸軌道、京濱電鉄を乗り越えて省線貨物線に連絡するには勾配が急過ぎること、及び人家密集地域を走ることで工事費もかさみ将来の改修改良も容易ではないことなどから、西口に連絡してその先の鶴見操車場に連絡するルートを選択したとのことです。

 その後、昭和2年11月2日付重役会にて鶴見線敷設工事費実施予算として壱百九拾四萬円にて承認されますが、昭和3年5月9日付重役会「鶴見線及矢向線設計変更並工事費予算増額承認の件」にて、「高架線両側ニ各一間半宛道路敷地ヲ取ルコトトサレ、横浜市都市計画道路ノ為矢向線零哩四十二鎖附近ニ於テ交叉スルニ十二米突道路横断ヲ高架橋トスル為メ鶴見駅ヨリ終点迄ヲ高架トスルヲ要ス」こととなり、変更実施予算額として鶴見線で弐百四拾参萬円となり四拾九萬円の増額、矢向線で旧計画百弐拾五萬円のところ、百七拾弐萬円となり四拾七萬円の増額となり、合わせて九拾六萬円の工事費増額と見込んでおります。昭和3年の96万円は現在価値で16億円余り、鶴見線の243万円は41億円余り、矢向線172万円は29億円余りとされております。
 いずれにしましても創業間もなく、埋立地を走る1期工事はさほど資金的な苦労はありませんでしたが、2期工事で鶴見駅周辺へ延長する鐵道敷設は大変な額の先行投資を必要とすることが判明しつつあり、経営戦略と判断、資金調達が重要な局面だったことがわかります。