鶴見臨港鐵道株式会社

◆戦時買収三分半利公債

 戦時買収時の対価について記載します。
戦時買収の買収価額は千六百八十九萬六千八百八円十九銭で、金融機関分が三分半利国庫債券で額面総額460万円余(@)。当社分のうち退職金・諸税他支払分は三分半利国庫債券で額面70万円余(A)。その他が三分半利公債で額面11,032,825円(B)でこれは登録国債として交付されて、資金化を必要とする場合は鐵道大臣又は大蔵大臣宛て登録除却承認の申請をすることとされておりました。

 このうちBについてその後どのようになったかが気になりますが、Bを元本として消費者物価指数で算定したその価値の推移は次のようです。
時期
元本
2017年時価
Aに対する比率
公債利子
2017年時価
昭和18年
11,032,825円
69.7億円余り
A
386,149円
244,013,911
昭和19年
55.8億円余り
80%
195,381,555
昭和20年
17.2億円余り
25%
60,252,666
昭和21年
4.4億円余り
6%
15,479,934
昭和22年
 2.0億円余り
3%
7,179,511
昭和23年
 1.1億円余り
2%
3,916,097
 
 戦時買収からわずか5年で資産価値がわずか2%まで下落したことになります。
 昭和18年11月30日開催の臨時株主総会にて「今後会社経営方針ノ件」として議長白石元治郎より「當社営業鐵道線全部政府ニ買収セラレタル為収入トシテハ交付国債の利息其他ノ雑収入ノミナルヲ以テ出来ルダケ経費ヲ節減シテ今後会社経営ヲナストモ右収入ノミニ依ルトキハ年四分五厘程度の株主配当を為シ得ルニ止ルヲ以テ当分ノ間政府買収ニヨル差益ヲ切崩シ年七分乃至六分ノ利益配当ヲナス様ニ致シ度ク」と発言記載がありす。
 その根拠となる収支計算が昭和18年11月11日付重役会決議書に記載されております。
  ○収入
項目

金額
時価2017年
 公債利子
346,821
219,161,900
 配当金 臨港バス
77,643
49,063,890

合同タクシー
5,520
3,488,179

興亜自工
4,800
3,033,199
 貸金利子
67,500
42,654,361
490,409
317,401,529
 ○支出
 経費
24,000
15,165,995
 税金
83,552
52,797,884
107552
67,963,879
 
 これをもとに次のように分析して方針をとりまとめたようです。「差引利益金 382,857円となるので資本金800万円に対して4分5厘程度の配当金は可能であるが、当社は近年昭和17年上期6分、下期7分、18年上期8分の利益配当をしているのでこれが4分に低下することは株主として甚だ苦痛となるだろうから、買収差益金600万円余りあるがこれを切崩して6分配当を為せば、計算すると差益金全額崩すのに22年を要する。」
 
 実際には、上段記載の通り、敗戦後インフレで貨幣価値が暴落したことにより、国債でありながら換金もできないジャンク債を引き受けたようなもので当社にとっては残念な結果に帰結しております。たとえば収入の公債利子は入金されても、子会社等の業績も芳しくなく、支出の経費昭和18年当時の24,000円は昭和23年には150万円ほどに達しますから、到底利益が確保できる状況にはありませんでした。また当時主な保有資産が登録国債ですから会社解散したくても国債償還するまでは株主に還元もできない状況でした。当然ながら鐵道還元運動についても戦時被買収鐵道各社同様の状況で手持ち資金をはじめ物価上昇にスライドして価格が上がる資産もほとんどなく、国債をいつまでも保有することも困難で、ましてや時価で鐵道を買い戻す資金力もあるはずがなく、買収当時の価額で買い戻すにはあまりに貨幣価値が変動し過ぎていたことがわかります。

 ただし当社の決算書の公債利子の推移から判断すると昭和24年には額面ベースで百万円を下回っているようです。恐らく戦後の財閥解体などで関連各社の持ち株を整理するなどで譲渡した結果でないかと思われます。